鍼治療で感じていること 後編
実際のツボの働きの例 【金】と【水】
先人達から引き継いできた伝統の中に、「人の積極的な志には、
ある男性が、左背中〜腰にかけての鈍痛を訴えて来院されました。
脈診や腹診で状態を確かめていくと、左腹部にお血(血の滞り)症状があることも認められました。
この血の滞りは左背部〜腰部にかけての鈍痛に深く関わっており、患部の背中〜腰の治療だけでは根本原因の解決には至りません。患部である背腰部に鍼をしたあと、手足の五行のツボを活用し、血の滞りの改善を図ります。
まずは足にある五行の【金】の性質を持ったツボを用います。
【金】の性質を持ったツボは、発散し潤す作用を強く持ちます。
腹部全体の気の循環を促し、気や血の滞りを散らしていくようなイメージを持ちながら、鍼を行います。
次第に鍼を支えている手の下にジワジワとした広がりを感じ始めます。
すると患者さんの身体が再起動されゆっくりと本来のプログラムが立ち上がっていくような感覚を感じます。
次に手にある五行の【水】の性質を持ったツボを用います。
【水】の性質を持ったツボは、血に入り堅さを軟らげる作用を強く持ちます。
今度は左腹部の深部の血が硬くなっている所に、新鮮な水分を引き込むイメージを持ちながら、鍼を行います。
干からびて堅くなってしまった田んぼに、水が引き込まれていくような感覚を感じ始めます。
次第に固まっていた組織が本来の自律したリズムで動き出す感覚を感じます。
一連の施術を終え、最初に確認したお腹の反応点を再度確認してみると、お腹の反応点の違和感はほとんど消失していました。
腹部にあった血の滞りは改善され、背中や腰の症状も翌日の朝には楽になっていることでしょう。
滞りや澱みは健やかな循環を阻みます。
シンプルに表現すれば、鍼灸治療で行うのは、気の循環を最適化することに尽きるのだと思います。
古代の人が見出した五行のツボの性質は、人間の身体に深く根付く自然本来のリズムの回復に、この現代においてもとても役立っています。