鍼治療で感じていること 中編
前回は、解剖学的な観点による施術の際の、針先の感覚をご紹介しました。
今回は東洋医学的な観点による施術を行うにあたり、「自己治癒力を高めるとは一体何なのか」に対しての見解を述べたいと思います。
ツボと陰陽五行
陰陽五行論とは古代の人々が感じていた自然現象を体系化するための哲学です。
自然の移り変わりをどう捉えるのかを主眼にしたこの体系は、人体の理解にも適応されてきました。
その適応過程で生まれ作り上げられたのが、ツボであり、経絡です。
「なぜ手や足などに鍼をするのでしょうか?」といった質問を受けることがあります。
ツボは経絡の流れの中にあります。
この経絡は、内臓や脳などの重要な臓器を滋養していると考えられています。
手や足にあるツボはその経絡の流れを最も活性化できるポイントに当たります。
陰陽五行論により体系化された5つの性質は五行と言われ、具体的には【木】【火】【土】【金】【水】で表されます。
この5つの性質が相互に影響を与え合いながら循環していくという法則性を古代の人々は自然の中にも身体の中にも見出しました。
手足のツボはこれら五行の性質をそれぞれ持ち、身体の循環の偏りを整えるために用いられます。
「内臓や脳の働きを高めるためであれば、腹や頭に直接鍼を行うだけでもよいのでは?」という質問を受けることもあります。
内臓や脳の働きだけを整えるのでは、内臓や脳に栄養を供給するパイプである経絡が十分に機能しないことがあります。
パイプである経絡にゴミが溜まっていたり細くなっていたり、なんらかの障害があると、中枢の働きを高めただけでは末梢の循環の改善までに時間がかかってしまうことがあります。
さらにパイプである経絡とはただのパイプではありません。
それぞれが、それぞれの意志を持って運動を行う自律した器官だと捉えても過言ではありません。
気を発散させることが得意な経絡、収斂させるのが得意な経絡など、内臓の働きと協調し時に抑制しあいながら、自己治癒力の発揮に深く関わっています。
環の端が無きが如く
12本の経絡は、途切れることなく循環しています。
一つの経絡を適切にしっかりと活性化させることが、他の11本の経絡も結果として刺激することとなり、気の循環を最適化することにつながります。
東洋医学的な施術の醍醐味とは、工場である内臓本体の動きを、司令の中枢である脳の働きを、自律した意志を持つパイプである経絡を、ツボを介して同時共時に調整できるところだと考えています。
これらの結果として、本来の自己治癒力が最大限に発揮されます。
次回は、実際にツボを用いた施術についてご紹介します。